カヤック旅 石垣島一周 後編
2月20日 南東風速3m
「帰ったらまた連絡してな」多良間島に行く船の準備をしながらそう言い、ショウキチさん達の早朝の出発を見送った。
見送り後テントを片付け、出発の準備をして、前日ショウキチさん達からおにぎりを作ってくれてたのをほうばりコーヒーを飲み静かな海を出航した。
風も弱く暖かく、天気も晴れ渡り大きな海原を漕ぎ進んでいった。
海は凪で伊原間の浅い海底が見えている。パチャン、パチャン、パドルが海を拾う音だけが聞こえる海を進んでいった。
友人が12時に平久保岬、石垣島の最北端の場所で待ってくれている。その時間に合わせ伊原間、久宇良を横目に過ぎていく。
時間を合わせるのに途中海岸でコーヒーを作って飲んでいた。
漕ぎ進んだ海を振り返って
「石垣島一周も半分を過ぎるか…」
毎日天気に恵まれ、風が味方となっていると、とっくに一周も終わってんだな…。自然相手のことに毎日好都合なことがあるわけないし、どちらかと対峙する事が多かったけど、そんな日々を耐え過ごした後は穏やかな日にとても感謝できる。
せっせ早く進んでいたらショウキチさん達にも会えなかっただろうが…
眩しい静かな海を、浜に座り眺め考えていた。
時間がきて漕ぎ進んだ。灯台で友人が手を振っている。待ってる友人の姿を見て嬉しくて嬉しくてパドルを高く持ち上げ合図をした。
灯台周辺には観光の人だろうか、人集りあった(後日友人からの話。観光の人にあのカヤックの人はお知り合いですかなど、その場で何度も声をかけられついでで観光の人達の写真撮影のサポートばかりするハメになったそうだ)
友人が望遠レンズで撮影した写真。スマホでは全くどこにいるか分からない写真になるようだ。
大海原の元では人はとても小さく、写真を見ると海旅の壮大なストーリーを物語っている。
友人は海岸まで移動していてくれて、軽く話をし、東海岸近くで会えればと話をした。
浜から海に戻る時。
今日は北風でいいんだよ…。微風ではあるけども向かいからくる南風は生温かった。3日間の寒空とは違い汗ばむ身体。スプレースカート(波が船室に入らない着用するカバー)も外してしまった。
北部東海岸は緑、茶、空の青、雲の白色の色彩だけで、島らしい景色、人が来ることもない。放牧された牛達が歩き回り、海岸近くまで降りるのもいれば、群れて草をついばんでいる。波音立てたカヤックをギョロっとした目つきで牛達は眺めていた。
友人が撮影ポイント近くに着いたら連絡してほしいと聞いていて、海上で電話のやりとりをした。指定された周辺に着いたが見つからないと…。何度も電話を切ってはかけて、小さな自分を見つけるのに苦労させた。
撮影場所にしたのは明石のパラグライダーが飛び立つ高台からで、肉眼では見えなかったようでカメラのファインダー越しに見つけたそうだ
空を飛んだ事はないけど、きっと、想像がつかないほど気持ちいいのだろう
撮影を終えた友人と電話で話し、夕方から仕事に向かっていった。カヤック旅を終え、会う時がとても楽しみだ。ありがとう。
明石海岸を越え漕ぎ進んだ先でスイッチが切れキャンプすることにした。
テントを張り、釣りをして魚を取りつつも、ヘマして根掛かりして、回収に潜りついでに泳いでは伊原間の海を楽しんだ。
2月21日 東風速3m
空の明るさがテントを照らし眩しさに目が覚めた。
食材も乏しくなって乾き物のパスタを茹で、玉ねぎとシーチキンを和えた。
ゴールは宮良海岸としていた。友人の都合もあり、明後日の午前に合流予定だ。今日、明日午前はのんびりしようと思い、少し漕いだ先に伊野田キャンプ場がある。シャワー浴びて冷たい水でも飲みたい。決めてしまえば準備はそそくさと済ませれる。
伊原間湾、玉取崎展望台を過ぎ伊野田周辺に着いた。
「キャンプ場どこだよ…」
道路からだとキャンプ場の入口はすぐ分かる。
海から見るとさっぱりだった…。地図を見ても漠然とも分からなかった。海岸には似たような入口がありふれている。暫く周辺の海をうろうろとしていた。海岸に着岸して歩いて確認しよう。
海岸に向かい漕いでいると女性らしき姿の人が手を振っているのが見えた。恐らくキャンプ場がある周辺だと思うが…。近づき姿が見え、髪の長い、ワンピース姿で麦わら帽子が似合う若い女性だった。
「カヤックが見えて手を振ってみて…来てくれたんですね」
そう言って、笑顔で話してくれたのが印象的だった。
少し話し
「キャンプ場を探していて、海からだと分からなくて…」と聞いて「今キャンプしてるから案内するよ」と。偶然にも彼女はキャンプ場でキャンプしている人で幸いだった。彼女はあっちゃんと呼び、あっちゃんはキャンプの施設の位置や、管理人の方や他のキャンパーを紹介してくれた。
以前のイメージで、閑散として誰もいない、静かな場所を想像していたけれど、近年のキャンプブームでキャンプ場は沢山の人で賑わっていた。
あっちゃんは面白い女性だった。石垣に来てすぐ働き先が休業となり、急遽自転車で石垣島巡りに出発し、キャンプは始めたばかりで、寝袋やクッカー等はあるがテントを持っていなかった…。余計なお世話だろうが女性一人テント無しは心配になるもんだ。
他のキャンパーとも俺はあっちゃんを介して仲良くなった。海から来た人と言われ話題になったようで、すんなり周りに溶け込むことができ、食材が余ってると言いながらも沢山のご馳走を頂いた。
夜も更けてあっちゃんの持っていたウクレレで音楽祭りとなった。キャンパーの皆は石垣島のバンド仲間のようで、島では名が通った人達だった。ウクレレが奏でる音楽と飲む酒に酔いしれ時間は過ぎて…
とうとう俺の石垣島カヤック旅も後少しで終わりを迎える。もっと孤独な静かな旅になると思っていたけど…。声はいつも聞こえ、寂しく渇くことはなかった。
枕元にある腕時計の秒針の残響音が心地よくその日の夜もぐっすり眠ってしまった。